大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和40年(し)74号 決定

主文

原決定を取り消す。

本件執行猶予取消請求を棄却する。

理由

<前略>職権をもつて調査するに、原決定の確定した事実によれば、申立人は、昭和三八年二月二五日に、東京地方裁判所において、恐喝罪により懲役八月の言渡を受け、右判決は、申立人の控訴・上告を経て昭和三九年二月一八日に確定し、他方、申立人は、昭和三七年一一月二四日に、東京地方裁判所において、別件恐喝罪等により懲役八月二年間執行猶予の判決言渡を受け、右事件は、申立人および検察官の控訴により東京高等裁判所に移審し、昭和三九年二月一八日に、同裁判所において、各控訴棄却の判決言渡があり、右判決は、同年三月四日に確定したものであるが、東京高等検察庁検察官は、右後者の判決確定前である同年二月二二日に、右前者の判決確定の事実を覚知したのにかかわらず、上告手続をとることなく、そのまま確定させたというのである。

ところで、刑法二六条三号は、検察官が、上訴の方法により違法に言い渡された執行猶予の判決を是正するみちがとざされた場合に、その執行猶予の言渡の取消をすることができるという趣旨であることは、当裁判所昭和三三年二月一〇日大法廷決定(刑集一二巻二号一三五頁)の明示するところである。したがつて、本件のように、検察官が、執行猶予の判決に対してした控訴につき、控訴棄却の判決を受けた後、その確定前に、被告人が執行猶予の欠格者であることを覚知したときは、このような違法な判決がそのまま確定することは著しく正義に反するものであるから、すべからくその有する上訴権を行使して、裁判所に刑訴法四一一条の職権発動を求め、その判決の確定を阻止すべきものであり、検察官が、被告人は執行猶予の欠格者であることを覚知しながら、上告の申立をすることなく、執行猶予の判決を確定させたときは、検察官はその取消請求権を失い、裁判所も、その請求を許容して執行猶予の言渡を取り消すことはできないものといわなければならない。

そうすると、これと相反する判断をした原決定には、決定に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められるので、ここにこれを取り消し、本件取消請求はこれを棄却すべきものと認める。

よつて、刑訴法四三四条、四二六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(田中二郎 五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六 下村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例